×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
御伽噺をしよう。
御伽噺であるからして具体的な事物に根付いた物では無く、
御伽噺であるからして具体的な意味などは持たない。
だか其れをお前が何某かに投影するというならば、
恐らくはそれはお前にとってはそう云うものなのだろう。
お前の影なのだろう。
ここに語るはひとつの影だ。
(そして影とは光である)
御伽噺であるからして具体的な事物に根付いた物では無く、
御伽噺であるからして具体的な意味などは持たない。
だか其れをお前が何某かに投影するというならば、
恐らくはそれはお前にとってはそう云うものなのだろう。
お前の影なのだろう。
ここに語るはひとつの影だ。
(そして影とは光である)
終焉を視る者なのだろうと問われ、ひとときの間彼女は返す言葉に躊躇った。
何処でそのようなことをお聞きになられたのですかと問えば、
主は宰相達の下世話な風聞を又聞きしたのだと悪びれなく答えた。
彼女の主は時折このような自覚の有無を疑いたくなる悪ふざけに出ては、臣下の手を焼かせている。
年が近い故か幾度か声をかけられたことのあった彼女は、その情報網の広さを薄々察してはいたが、
このように直接水を向けられたことは初めてであった。
「人の目に未来が見えるとはどんな感覚なのだろう」
此方の沈黙も意に介さない様子で翠玉のまあるい瞳を年相応に輝かせ、少女の主は更に問うた。
逡巡の後無礼を働かぬような言葉を丹念に選びつつ、少女は
「余り愉しいものでは御座いませんよ。善き命運のみならず、目を覆わずにはいられぬ惨憺たる命運が写り込んでいることもまた多きにて御座います」
と答えた。
「人よりも多くの不幸を目の当たりにするということか」
「左様にて御座います」
「だが幸運も矢張り人以上にその目に写すこととなる。それは凡百の民の幾倍鮮やかな生なのだろうな」
「鮮やかさに目が眩み遂に此方側へ帰って来れなくなった者も幾人もいると伝え聞きましょう」
「それでも城と言うかたちの鳥籠で一生を終えるよりは、何れかは実りある生き様に思えるよ」
盲になろうと僕にはそれがこの上なく羨ましく感ぜらるるのだ。そう言って彼女の主は軽く笑った。
如何に返そうものかと項垂れていると、主は更に続けてこう言った。
「傷を負った所以に、力に目覚めた者もいると聞く」
不意に彼女の肩が強張った。存外の言だった。
彼女はこの国の一神官であること以上に自身の身の上を他者に語ったことはない。
語りようにもそれ以上を持たぬと信じて已まない。
終焉を視る者であるということもそうであり、その所以は尚のこと然りであった。
傷を負うたこと自体を気に病んでいるわけではなかった。
何故傷を負うたかの記憶が彼女にはなかった。自身の身体にはっきりと残る傷すらもなかった。
しかしそれに兆したと見える力は確実に在り、彼女を今の地位たらしめている。
彼女の師父は彼女のことをはっきりと、『傷持つ者だ』と言った。
師父が言うからにはそうなのだろう。自身の幼少時の記憶は朧気で、それ以上の判じる術はない。
そしてまた記憶が明瞭になってきた頃からその力が傍らにあったことも確かだった。
所以が知れぬのに只結果だけが在る。
それが何よりも罪深く重苦しい枷であるかのように、彼女には思えた。
だがこれに続いた言葉はこの比ではなく、更に彼女を当惑させた。
「そのような者達はまた自身の守護者を選定することが出来るという。スピネル。あなたがもしその傷持つ者だと言うのならば――僕を守護者にしてはくれまいか」
彼の人は彼女の主であり、また遠からぬ未来に彼女の都の主となるべくした御身であった。
項垂れたその白い頭を、彼女は挙げることが出来なかった。
永遠にも感ぜられた沈黙の後に彼の人は、戯れだ、と笑った。
その笑みは彼女にとって、酷く寂しいもののように見えた。
(――我が師父は何処におわする。)
PR
この記事にコメントする